図書・図書館史
設題 | 日本または西洋のどちらかを選び、それぞれの時代(古代、中世、近世、近代以降)の図書館発展の特徴をコンパクトに要約し、かつ私見(400字程度のまとめ)を述べてください。 |
解答 |
1行 1 はじめに
2行 日本の図書館史について、図書館発展の特徴を古代、中世、近世、近世以降にわけて以下に記載する。 3行 4行 2 古代 5行 わが国への漢字と書物の伝来は4、5世紀ころで、情報伝達媒体である紙や墨、さらに仏教などもこのころ伝 6行 来した。仏教や儒教の伝来は、仏典や漢籍をわが国にもたらし、それらを保管する入れ物である経蔵や文庫の発 7行 生を促すことになった。書写された仏典や文献は、仏教の精髄を伝える貴重なものとして経蔵が設置され、経典 8行 専門書庫となった。 9行 また、『古事記』『日本書紀』『風土記』などの国史編纂のほかに、行政関係文書や諸記録物が大量に生み出 10行 されてくると、それらを収集・保管する機関として図書寮が登場した。図書寮以外にも、官設の文書保管機関と 11行 して各官司および内裏、院、摂関家、幕府などに設置された政府の記録庫である文殿があった。 12行 さらに、国風文化の発達は、かな文字の成立により、『伊勢物語』『枕草子』『源氏物語』などの文学の発達 13行 を促し、書物の量も増して、貴族の間で学問研究のための文庫を邸内に設けた石上宅嗣の芸亭、菅原道真の紅梅 14行 殿などがあった。 15行 16行 3 中世 17行 中世と呼ばれる鎌倉時代・南北朝時代・室町時代は、武家勢力が浸透し、封建制度が確立された。 18行 鎌倉時代のなかごろ、北条実時によって金沢文庫が設けられた。実時の学問は政治、法制、軍事、文学など広 19行 範囲に及び、それらを学んだ書物が文庫の基礎をなした。実時によって基礎を培われた文庫は、その子顕時、孫 20行 の貞顕によって発展し、漢籍や国書など広い分野にわたり収集された。その利用には規定があって、公開的な図 21行 書館ではなく、むしろ金沢氏個人の文庫の性格が強く、一部の関係者、特に僧侶の利用に限定されていた。 22行 室町時代には、足利学校が武家への助言者を養成する機関として栃木県足利市に造られた。足利学校の文庫は 23行 、武人から多くの図書が寄進され、儒学関係特に易学の典籍は豊富であった。図書利用に関しては、貸出は禁止 24行 、閲覧は1冊に限定、書き込み・切り抜きの禁止などがあった。 25行 26行 4 近世 27行 江戸時代、徳川氏の権力は絶対的なもので、鎖国体制のもとでペリー開国まで、比較的天下泰平の時代が続い 28行 た。 29行 徳川幕府の最初の文庫として最初に設置されたものに富士見亭文庫があり、わが国最初の官立図書館で、幕府 30行 の参考図書館である。大名文庫では、尊経閣文庫や佐伯文庫、朝廷や公家の文庫として、東山御文庫、近衛家文 31行 庫などがある。 32行 また、幕府護持のための封建制度の維持発展の支えとして、幕府の直轄学校である昌平坂学問所がある。これ 33行 は当時における最高学府として、その文庫も、他の学校に対して常に優位に置かれ、中央図書館的な機能を果た 34行 していた。 35行 さらに、庶民の読書機関としての図書館も出現するようになった。医家であった板坂ト斎は江戸浅草に私有の 36行 浅草文庫を開いて、一般に公開した。江戸時代最初の公開図書館であり、医書を多く蔵したが、和漢の一般の書 37行 にも富み、諸衆の閲覧に供していた。仙台藩が公費で運営、一般庶民に公開した青柳館文庫は、図書の帯出制度 38行 も行われて、管理運営は近代図書館のそれとほとんど変わらなかった。 39行 40行 5 近代以降 41行 明治時代、『西洋事情』によって福沢諭吉は、西洋の図書館が如何なるものかに触れて明治期の図書館運動の 42行 出発点として影響を与えた。その後、わが国官立公共図書館の創始であり、国立国会図書館の源流である書籍館 43行 が発足した。また、京都府が近代公共図書館の先駆けとなる集書院を新築し、経営を集書会社に委託し、公設民 44行 営の図書館が開設された。 45行 明治32年、日本で初めて図書館の法律である図書館令が公布された。図書館令の公布が契機となって、その 46行 後の図書館の設置が全国的に波及した。戦後の昭和25年、社会教育法の精神に基づき図書館法が制定され、司 47行 書の職務規定と資格、図書館奉仕など新しい公共図書館のあり方が示された。さらに、昭和38年の中小レポー 48行 トの刊行を経て、公共図書館での貸出サービスは当りまえのことと認識されるに至っている。 49行 50行 6 おわりに 51行 図書館の歴史を古代から近代以降にわたって学習した。図書館は経典保管庫である経蔵から始まり、現在に至 52行 ったわけだが、いつの時代も時代の権力と民間の両方でそれぞれ進化しているように思う。最初は単なる保管庫 53行 であったものが、さまざまな書物が扱われるようになり、公開もされるようになった。しかし、利用が一部の身 54行 分の者に限定されていたり、貸出が制限的であった時代もあり、現在のように無料での貸出やどこに住んでも地 55行 域の図書館を利用できるような状態は、本当に最近のことなんだと思った。 56行 図書館自体のサービスの進化はこれからも続き、もっとよりよいものを追求していく必要がある。近年はイン 57行 ターネットの普及によって、無形の情報も存在し、世界ももっと身近なものになっている。もしかしたら図書館 58行 の発展はまだまだ進化の途中であり、もっともっとグローバルな展開が待っているのかもしれない。そのために 59行 私たちは日々の研鑽を怠らないようにしなければならいと思う。 |
文字数 | 2072文字 |
添付 | |
参考 文献 |
小川徹他編『補訂版 図書館史 近代日本篇』教育史料出版社2003年 4-87652-438-6 石井敦編『図書および図書館史』雄山閣1990年 4-639-00968-2 |
総評: 合格 |