図書館制度・経営論
設題 | 「図書館経営の基本思考」における「未来思考」の5点について簡潔明瞭に説明した後、その「未来思考」を受けて、今後の専門職としての司書のあるべき姿を論じるとともに、それに伴う図書館運営のあり方を、貴方自身の考え方を含め論じて下さい。 |
解答 |
1行 一 未来思考について
2行 未来思考とは、質の高い未来を予測できる情報を収集し、未来をできるだけ読んで政策を考えることである。 3行 この質の高い未来を予測できる情報は、大きく五つに区分することができる。 4行 1 文教政策情報 5行 国や地方自治体等の教育行政に関する情報である。著作権問題や図書館経営にかかわる法規は、図書館政策に 6行 影響する。よって、これらの変化には、十分に配慮し経営戦略・戦術を計る必要がある。 7行 2 社会変化情報 8行 ①情報環境の変化、②高齢化社会、③高度学歴化社会、④少子化社会の四つの要因による社会変化に関する情 9行 報である。高度情報化や高度学歴化された社会を背景に、図書館には情報センター的機能が求められ、図書館員 10行 に対する専門性も強く要求されるようになるので、こうした時代を把握して迅速に対応できるような体制が必要 11行 である。また、社会の高齢化及び少子化により、児童・婦人中心から、成人・高齢者中心に利用者に変化するた 12行 め、図書館の施設・設備・備品や選書のあり方をそれに合わせて変化させなければならない。 13行 3 図書館界の変化情報 14行 ①関係団体の方針・方策、②主体的・自立的変化、③親機関からの変化の縦軸・横軸の動向に関する情報であ 15行 る。ネットワークの中で運営されている図書館にとっての関係団体で決議されたことや申し合わせ、図書館その 16行 ものについて、経営の合理化等による自主的・主体的変化、および親機関の下部組織に位置しているため親機関 17行 の方針は図書館の経営に影響する。よって、これらを十分に考慮しなければならない。 18行 4 出版界・情報産業界の変化情報 19行 ①出版形態の変化、②インターネット社会に関する情報である。出版形態の変化は、電子資料のウェイトが高 20行 まっていることにより、予算編成、設備整備計画、備品調達計画、利用の仕方、保存計画、利用指導等に大きく 21行 影響するので、その動きを把握しておく必要がある。また、近年のインターネット社会では、フェイクニュース 22行 などの問題から、情報の取得に関して、図書館は中立的で客観的視点からの資料、専門職員からの多角的で有用 23行 な議論をしたり正しい判断を助ける情報を提供する役割が求められる。 24行 5 マーケティング変化情報 25行 マーケティング変化は、すなわち利用者中心思考である。求められているニーズを社会の中から把握し、自館 26行 調査を行い、マーケティング手法を取り入れ、図書館の健全な発展に寄与する必要がある。 27行 28行 二 今後の専門職としての司書のあるべき姿 29行 1 ITに関する専門知識 30行 社会変化情報のうち、情報環境の変化として高度情報化社会という社会的背景から、図書館が情報センター的 31行 機能を求められるようになり、それに対応した情報機器を扱うことになるため、情報処理管理者的な資質が必要 32行 になる。また、高度情報化社会において、高度な情報機器を操作、活用できる者が多くなるに従い、それに対す 33行 る指導的立場となる専門性が要望されるようになる。 34行 一方、出版形態の変化から、紙資料、マイクロ資料、磁気資料中心から電子資料(電子書籍、データベース等 35行 )が加わり、そのウエイトが高まっている。また、インターネット社会の普及によって、フェイクニュースが問 36行 題となり、正しい情報を入手する情報拠点としての図書館の役割が期待される。 37行 以上から、ITに関する専門知識もった図書館司書が今後必要である。 38行 2 経営能力 39行 文教政策情報として、国や地方自治体等の教育行政に関する情報から図書館経営にかかわるものが発せられる 40行 ことがある。例えば、「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」が設けられた際、市民への情報活用能力 41行 育成のための講習や研修会の開催が謳われた。この場合、当該情報を図書館経営に柔軟に反映する能力が必要と 42行 なる。 43行 また、図書館界の変化情報も同様であり、関係団体や親機関の方針・方策に変化があった場合、直接図書館経 44行 営に影響する。例えば、公益社団法人日本図書館協会や地方自治体などで決定されたことは図書館経営において 45行 十分考慮されなければならない。 46行 さらに、マーケンティング変化情報は、利用者視点からの情報であるため、図書館経営を行う情報として、常 47行 に把握しておく必要がある。 48行 以上から、今後は図書館の経営能力をもった図書館司書が必要とされる。 49行 50行 三 図書館経営のあり方 51行 図書館は情報環境の変化に伴い、高度情報化社会という背景から情報センター機能が求められる。インターネ 52行 ット社会では、図書館を利用せずともインターネットを通して、情報を入手することができるが、近年問題とな 53行 っているフェイクニュースなどにより、正しい情報を入手する情報拠点としての図書館の役割、図書館は知る権 54行 利を保障する唯一の公的機関であるという図書館本来の使命が認識されつつある。そうしたニーズに対して、十 55行 分応えられるように、人的面や情報サービス環境を整備することが求められ、図書館経営に反映されなければな 56行 らない。 57行 また、マーケティング変化情報は、利用者中心思考の考え方である。その意味で、図書館経営を行う情報とし 58行 て、利用対象のマーケティング情報は常に把握して図書館経営に生かされなければならない。 |
文字数 | 2098文字 |
添付 | |
参考 文献 |
柳与志夫著『図書館制度・経営論』学文社2013年 978-4-7620-2389-7 手嶋孝典編著『図書館制度・経営論 第2版』2017年 978-4-7620-2701-7 Peter Hernon John R. Whitman『図書館の評価を高める』丸善2002年 4-621-0785-1 |
総評: 合格 |